【インタビュー記事】
アパート、マンション、戸建などには定期的な管理が必要だ。現在、除草作業や共有部清掃などの軽作業は不動産業者が担っている場合が多く、長距離の移動が伴うことで、管理コストが高額となっている。不動産の軽作業と地域住民のスキマ時間を繋げるサービスを提供する、株式会社Rsmileの富治林希宇(写真、右から2番目)。現在の業界の課題やサービスでの顧客の声、今後の展望を聞いた。
【プロフィール】富治林 希宇(ふじばやし ねがう)
立命館大学で建築を学んだ後、大手不動産会社にて不動産の管理・運営に従事。その後、投資銀行のファーストブラザーズにて多数の不動産投資・運用業務を執行後にクラウドリアルティにて投資銀行部長を務める。2020年、株式会社Rsmileを創業し、不動産業界のワークシェアサービスCOSOJIを展開。仕事の地産地消による地域活性化を目指す。
もくじ
現場を知っているから提案できるソリューション
実際の利用者の声に寄り添う
地方への拡大と空き家問題の解決に向けて
不動産業務の再定義により、新たな取引を
現場を知っているから提案できるソリューション
ー現在の事業について教えてください。
「不動産の軽作業」と「地域住民のスキマ時間」を繋げるワークシェアサービス「COSOJI」を提供しています。従来の管理会社が行っている軽作業は、共用部清掃や巡回点検の短い時間の業務であっても、現地に向かうための移動経費が発生していました。また管理会社が協力会社に発注するケースもあり、その結果実務内容に対して高額な価格となっているのが現状です。日々の業務に忙殺されている管理会社では手が回らず、清掃や修理が完璧にできていないということもありました。そこで管理会社における忙しさに一助を担うべく、地域住民のスキマ時間に着目しました。外部委託に似た形をとることで、不動産の業務を少しでも効率化し軽減できないかと考えたんです。
また、働き手である地域住民にとっても、空いている時間に近所で働きたいというニーズはあるものの、働ける場所がないということがありました。そのような実情を踏まえ、始めたサービスがCOSOJIです。
アパート、マンション、戸建などの所有者をはじめ、法人・個人誰でも不動産に関する軽作業を地域住民へスマホひとつで依頼することができるようになっています。依頼者は、不動産に関する軽作業を物件がある地域の住民へ依頼できるため、移動コストの削減などにより従来と比較して価格を抑えることができます。また、スマホ一つで全て完結できることも特徴の一つです。工程としては、まず依頼者がスマホから建物の情報を入力します。そこから働き手はスマホの案内に従って清掃などの作業を行い仕事を完了させることができます。
ー事業の着想のきっかけはどんなものだったんでしょうか?
私は、もともと不動産の現場で働く仕事をしていて、エアコンの修理や電球入れ替えなどを行うビルマネジメントを担っていました。現場で働く中で、管理している物件から遠くに住んでいる私がわざわざ交通料金をもらって現地へ出向き、除草作業や掃除を行うことに疑問を持っていました。地元の人が管理すればもっとコストを抑えることができると考えていたのです。
また、私の経験上から地元の人が地域のために活動することが、地域の活性化につながると思っていました。不動産管理における軽作業でも、やはり地元の人の方が愛着を持って働くことができると考えたんです。単なる草刈りや清掃などの軽作業だとしても、愛着を持ってやることで建物の管理の質は向上します。不動産オーナーの満足度は高くなり、建物一つ一つが綺麗なまま管理されることによって、街全体の外観も向上します。管理作業という小さなことですが、人を魅了する価値の高い建物作りや町づくりに繋がっていると思っています。
・実際の利用者の声に寄り添う
ーCOSOJIというサービスを行ってきて、今までどんな反響がありましたか?
費用については依頼者の方にも働き手の方にも満足の声をいただいてます。依頼者の方からは業者の移動料金を負担することがなくなったのでリーズナブルな価格設定を行うことができているという声が届いたり、一方で利用者の方からは「草刈りだけでこんなにもらえるんですか」と驚かれることも少なくありません。どちらにもwin-winになるような価格設定を行っています。
また、依頼者の方には、働き手の方の清掃のフィードバックを行ってもらいます。5点満点で点数をつけてもらうのですが、現在の全体の満足平均は4.8と高い評価がなされ、それが働き手のモチベーションにも繋がっています。
所有しているアパート、マンションや戸建から遠く離れたところに住んでいるオーナーさんもいます。そういう方にとっては、わざわざ現地へ行かなくともCOSOJIを使う中で建物の現在の様子を知り修繕修理を手配するという助けになっています。今年の4月からbeforeとafterの写真を働き手の方に撮ってもらう取り組みを導入しました。依頼者の方には視覚的に前後での変化を実感してもらうことができ、物件のより詳細な様子を知ることができるので高い評価をいただいてます。そして実は働き手の方にも好評でして、達成感を感じるようになったという声も伺うようになりました。
ーCOSOJIの働き手となる方はどのように決まるのでしょうか。
基本的にオープンに募集させていただいてますが、私たちの方で事前に簡単な適性検査をしています。またスタンダードを揃えるためにも働き手に向けてマニュアルを用意しています。依頼者さんのフィードバックをもとに業務の改善や満足度向上に繋がるようなことをお話しています。
当初の想定では、個人事業主の方や主婦の方が働き手の割合として多いのではないかと思っていました。しかし今は副業ブームもあってか、会社員の方も働き手として登録してくださる方が増えています。
・地方への拡大と空き家問題の解決に向けて
ー空き家の解決も着手されているとのことですが、どのように行っているのか詳しく教えてください。
日本の空き家は、年々増えている状況です。その数は平成30年で約846万戸と過去最高の数となっています。空き家の大半は雑草は伸び、不衛生な環境により異臭を伴うことがあります。空き家問題は持ち主がどうにか解決しようとしない限り、状況が改善されません。行政や企業もこの問題には介入しづらく、結果これからも空き家は増えることが予想されています。
そこで私たちは、2021年1月に一般社団法人全国古民家再生協会さんと提携契約を結び、古民家・空き家の再生を行う事業を共に進めていくことを決定しました。行政の協力も得ながら空き家の管理と地域住民のスキマ時間をつなげてます。提供する主なサービスは、屋外の目視点検及びゴミ拾い、換気通水などです。空き家の大半は、管理者がどこに相談していいのかわからず、また現在の建物の様子を把握していないことから発生しています。COSOJIが提供するこのサービスによって、空き家の管理に前向きになる人も多くいると考えています。
・不動産業務の再定義により、新たな取引を
ーこれからの事業展開について教えてください。
今後の展望としては、もっと依頼者と働き手のマッチング数を増やしていきたいと思っています。現在、働き手に対して依頼数の数が足りておらず、また働き手一人が担当している物件もそんなに多くはありません。ここから依頼数の絶対数を増やすこと、働き手一人一人の担当する物件の量を希望に合わせ増やすことに注力していきます。絶対数を増やすということで言うと、今のユーザーのほとんどは関西、関東、中部の方でしたが今では全国にてひろまっており地方の方にもどんどん使っていただきたいと考えています。これから空き家問題にも積極的に取り組んでいきたいので、ユーザーの幅を広げていきたいです。
ー今後の事業を通して、作りたい社会について教えてください
不動に関わる仕事をしてきた経験から、ビルのマネジメントを行う中で、建物の価値をあげることこそ自分ができることなのではないかと思います。建物の利便性や景観をよくすることで、そこを利用する人はもちろん近隣の住人も喜ばせることができます。事業を通して、建物の価値の最大化を行い続け、町そのものの価値の最大化につなげていきたいと思います。
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